皆さんこんにちは!
松丸、更新担当の中西です。
“当たり前”にする仕組み
海の上でお客様に「釣りの最高の思い出」を提供する遊漁船。けれど同時に、遊漁船は“移動するレジャー施設”であり、ひとたび判断を誤れば大きな事故につながるリスク産業でもあります。近年は社会全体で安全意識が高まり、事業者には「経験と勘」に頼らない運航が求められる時代になりました。今回は、遊漁船が直面する現代の課題の中でも最も基盤となる「安全管理」と「法令遵守」について、現場目線で整理します。
■1. 「安全=船長の腕」から「安全=社の仕組み」へ
昔ながらの船宿文化では、ベテラン船長の経験が最大の価値でした。もちろん今も船長の技量は重要です。しかし、
・出航判断の基準が“人”に依存してブレる
・新人船長にノウハウが継承されにくい
・繁忙期に無理をしやすい(予約優先の空気)
こうした状態は、事故が起きたときに「なぜ止められなかったか」を説明できません。そこで必要なのが、誰が担当しても一定の安全水準を保てる会社の仕組みです。
■2. 具体的に整えたい安全マネジメントの柱
(1) 気象・海象の判断基準を見える化する
出航可否は、風速、波高、うねり、潮流、雷注意報、視程など複数要素の組み合わせです。ここを「このくらいなら行ける」で済ませると、判断が属人化します。
・港別、釣り場別の「中止基準」
・時化た場合の「帰港判断ライン」
・予報が外れたときの「撤退ルール」
を紙でもデジタルでもよいので明文化し、全スタッフで共有することが重要です。
(2) 乗船前ブリーフィングの質を上げる
ライフジャケットの着用や非常時の行動は、説明して初めて“できる”ようになります。
・着用の確認(サイズ・締め方)
・立ち入り禁止エリア
・竿の振り回し、フックの扱い注意
・救命設備の場所
・体調不良時の申告ルール
「毎回同じ説明で面倒」と感じるかもしれませんが、ここを手抜きしないほど、事故・ケガ・トラブルが減り、結果的に運営が楽になります。
(3) 整備・点検を“記録”として残す
船体・機関・電装・救命設備は、点検していても記録がなければ証明できません。
・始業点検(燃料、冷却、オイル、バッテリー等)
・救命胴衣、救命浮環、発煙筒などの期限管理
・無線、AIS、GPS、魚探、レーダーの動作確認
・法定検査、任意保守の履歴
「チェックリストに丸を付けるだけ」でも、事故後の対応力が段違いです。さらに、整備の抜け漏れが減り、故障の予防にもなります。
(4) ヒヤリハット文化を作る
大事故の前には小さな異常が積み重なります。
・ロープが絡みそうになった
・波で足元を取られた
・フックが飛んで危なかった
・酔いで倒れそうになった
こうした「ヒヤリ」を共有し、対策(立ち位置、声掛け、装備)を更新していく仕組みが必要です。責める文化ではなく、守る文化へ。
■3. 法令遵守が守りから信頼の武器になる
法令遵守というと「縛り」「面倒」と思われがちですが、現代はむしろ信頼の武器です。
・安全管理の体制をホームページで公開する
・保険加入、救命設備、整備体制を明記する
・欠航判断の基準を丁寧に説明する
このように情報を開示できる事業者は、価格競争に巻き込まれにくく、リピーターも増えます。お客様は「安さ」だけでなく「安心」を買っています。
■4. 安全投資を回せない事業者が苦しくなる
安全対策にはコストがかかります。救命設備、整備、研修、記録、システム導入…。
一方で、燃料高騰や物価高で運営コストも上がっています。ここで「安全は後回し」にすると苦しくなります。
現代の課題は「安全が大事」ではなく、「安全を継続できる経営の形」にあります。例えば、
・料金体系の見直し(安全投資分を明確化)
・乗合の最適化(定員管理、無理な出航をしない)
・整備を外注と内製で組み合わせる
・研修を地域で共同開催する
など、安全を回す仕組みが必要です。
■5. まとめ:安全はサービス品質そのもの
遊漁船の魅力は、海の上で非日常を味わえること。しかし、その非日常を成立させるのは、徹底した日常の積み重ねです。
・判断基準の明文化
・説明の徹底
・点検の記録
・ヒヤリハット共有
これらはすべて、お客様の体験価値を守るためのサービス品質です。安全を磨くことは、遊漁船の価値そのものを高めることです。次回は、人材不足と技能継承という課題に踏み込みます。
■6. 緊急時対応は「知っている」ではなく「動ける」へ
いざという時に人は固まります。だからこそ、訓練と役割分担が必要です。
・落水者が出たとき:誰が指示、誰が救助、誰が通報を担うか
・急病人が出たとき:応急手当、救急要請、帰港判断の流れ
・機関トラブル:漂流防止、他船との連絡、乗客の不安軽減
ここは「年に一度の確認」では足りません。繁忙期前、シーズン切り替え時など、短時間でも繰り返すほど精度が上がります。
■7. お客様層の多様化に合わせた安全配慮
近年は初心者、女性、子ども、外国人観光客など、利用者が広がっています。
・子ども:転倒・落水対策、保護者への説明、座席配置
・初心者:フック事故防止、移動時の姿勢、竿の扱い指導
・外国人:簡単な英語表記の注意事項、ピクトグラム掲示
・高齢者:段差や手すり、休憩導線、酔い対策
「誰でも楽しめる」ためには、「誰でも安全に過ごせる」環境が必要です。
■8. 事故後対応の備えが風評を守る
事故は起こさないのが前提ですが、ゼロを保証するのは難しいのも現実です。だからこそ、
・連絡先一覧(家族、関係機関、保険会社)
・情報発信の窓口(誰が、何を、いつ発表するか)
・記録の保全(点検記録、当日の判断根拠)
など、事故後の対応設計が重要です。初動が丁寧なほど、誠実さが伝わり、信頼の毀損を最小化できます。
■9. 現場で使える安全チェックリスト例
文章化が難しい場合は、まずチェックリストから始めるのが現実的です。
【出航前】
・予報(風/波/雷/視程)を確認した
・燃料/オイル/冷却水/バッテリーを確認した
・救命胴衣の数と状態を確認した
・無線/連絡手段が使える
・乗船名簿(連絡先含む)を把握した
【出航後】
・ライフジャケット着用を再確認した
・移動時の注意を周知した
・危険行為(立ち歩き、飲酒、喫煙等)を抑止できる体制がある
【帰港後】
・ヒヤリハットを記録した
・整備の気付き(異音、振動、計器異常)を記録した
こうした運用できる形に落とすことが、最短の改善になります。
■10. 安全を伝えるほど、クレームが減りリピートが増える
意外ですが、安全説明が丁寧な船ほど「厳しそう」と敬遠されるのではなく、「安心して任せられる」と評価されます。
・初心者が不安なく参加できる
・家族や女性が選びやすい
・常連も安心して紹介できる
結果として客層が安定し、無理な出航圧力も減ります。安全対策はコストではなく、事業を守る投資です。
■補足:安全情報の伝え方のコツ
欠航や注意事項は、結論→理由→代替案の順で伝えると納得されやすいです。